クレイドル・ウィル・ロック
お正月にNHKで再放送されたドキュメンタリー
『華麗なるミュージカル〜ブロードウェイの百年』で紹介されてたのを観て、
ずっと観たかった映画です。
大恐慌下のNY、ニューディール政策の一貫として行われた
「フェデラル・シアター・プロジェクト」でアメリカ初の社会問題を扱った
ミュージカル『クレイドル・ウィル・ロック(揺かごは揺れる)』が
上演されるまでを描いた作品。
実話を元にしてますからして、
オーソン・ウェルスに、新聞王のハーストに、
ネルソン・ロックフェラーに、
絵画関係じゃ、ディエゴ・リヴェラにフリーダ・カーロも
出てきちゃいます。
大恐慌、資本家と労働者や組合との対立、
共産主義者や黒人に対する、あからさまな差別、
表現の自由を求めて戦う芸術家たち、大戦直前の不穏な社会……
と、重苦しく描こうと思えばいくらでもそうできそうな作品なんですが、
すっごく軽妙で、そこが素敵でしたね。
そして誰のことも裁かない映画でした。
共産主義者の温床になりつつあると、内部告発して
フェデラル・シアターを閉鎖に追い込んだ女性職員や、
ムッソリーニに援助金を密かに贈るハーストや、
ディエゴ・リヴェラに描かせたロックフェラーセンターの壁画を
政治色が強いとして叩き壊してしまうネルソン・ロックフェラーですらも。
皮肉たっぷりではあっても、
わかりやすい善悪の対立はさせていないし、
ちゃんとそれぞれを人として描いているところに好感がもてました。
というかね、どいつもこいつもみ〜んなとにかくアクが強くて、
個性的で面白く、かなり「ドタバタ喜劇」調です。
ロックフェラー(ジョン・キューザック)なんか、いかにも
調子こいてる成金おぼっちゃま風だし、ディエゴは胡散臭すぎる。
いちばん激しいのは、『クレイドル・ウィル・ロック』の演出を手掛けた
若きオーソン・ウェルスで、
とにかく五月蝿くて大口叩きまくりの熱い、いい加減な男。
本当にみんな、チャーミングでした。
出演者も豪華なんです。
ティム・ロビンスが監督だから、当然スーザン・サランドンでしょ、
ビル・マーレー(腹話術師役。あれ自分で演ってたのかなあ、
だったら凄い。喉仏は動いてたけど)、
ジョン・キューザックでしょ、
ジョン・タットゥーロ(ファシズムを信望する父親と対立する
イタリア系役者の役。舞台のシーンですっごく上手かった)、
エミリー・ワトソン(同じく舞台女優役。すごく唄が下手なんだけど、
これがいい味なんだなあ)、
最近、私の贔屓のハンク・アザリア(『クレイドル〜』の作曲家
マーク・ブリッツスタイン役。歌声が聞けて満足。これで、ブロードウェイの
『キャメロット』観れなくても我慢します)。
そして、最終的には『クレイドル〜』の上演を応援する、
おちゃめで機転の利く伯爵夫人役で、ヴァネッサ・レッドグレイブ!
いつまでも麗しい、すごい女優さんですねえ、彼女は。
い〜っぱい若い女優さんも出てきましたけど、誰よりも美しかったです。
はてさて、劇場閉鎖・上演禁止に追い込まれた『クレイドル〜』が
別の劇場を借りて、「組合に加入していない」作曲家のマークの弾き語りで
上演することになってから以降のクライマックスについては、
恐らく観ていた誰もが想像できるハッピーエンドに向っていきます。
命令に背いてミュージカルに参加すれば廃業に追い込まれるからと、
観客と一緒に観客席に座っているしかなかった「組合員」の役者たちが、
一人ふたりと、立ち上がり、ミュージカルに参加し、演じ始めていく。
ここね、筋が読めても、やっぱりかなり感動的です。
本当に幸せな気分になりました。
観客役のエキストラが、もう大喜びなんです。その姿に鳥肌が立つし泣ける。
スタンディング・オベーションの拍手と歓声ってのは、
おそらく世界でいちばん幸せで素敵な音色の一つじゃないでしょうかね。
映画はこの興奮の嵐の劇場と、そこを一歩出たら見える当時のブロードウェイ、
そして、最後に一瞬だけ、今のブロードウェイの映像が写って終わります。
ブロードウェイには、きっと、
すっごくすっごくたくさんの俳優さんや演出家や作曲家や、
とにかく100年間分の、
そこで芝居に携わってきた人たちの幽霊が住んでるんだろうなあ、と
そのシーンを観て思いました。
とディズニーランドの「ホーンテッド・マンション」みたいな、
いやもっと大規模の、
幽霊たちのどんちゃんパーティが繰り広げられてるんですよ、きっと。
素敵な幽霊さんたち。
いやはや、ほんっとに改めてブロードウェイに行きたくなりました。
ヤバい。やっぱ劇場行かなくちゃ。
あの空気のなかで観客にならなくちゃ。拍手しなくちゃです。